桜が死んだ日

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日本国内の桜が絶滅したのは、二十一世紀の半ばだった。
桜のみに伝染する新型ウィルスは、挿し木によるクローンで増殖を続けたソメイヨシノを筆頭に、多数の変異型を発現してあらゆる種の桜に蔓延、四月の野山を灰色に変えた。
枯死した桜の幹や、根を介して土壌に流れたウィルスの除去には、向こう千年は掛かるとされ、海外からの移植も、薬物・遺伝子改良もことごとく失敗に終わった。桜の国日本から桜が消えた日、それは一種、日本人の魂が死んだ日でもあったかも知れない。


それから五百年。
書物や映像の桜が溢れる虚飾の国で、私は小さな苗木に向かう。
灰色の枯れ木に見えるそれは、ウィルスが休眠に追い込んだ最初の桜。先人達の意地と誇りが創り上げた、国内発のワクチンが遂に完成するのだ。
この苗が息を吹き返す時、永かった日本の冬が終わる。
あと五百年、いや千年後かも知れない。それでも必ず、日本中に桜の咲く日が来ると信じて。
SF
公開:21/03/08 13:18
日本の桜の8割を占める ソメイヨシノの多くは 挿し木(クローン)栽培です。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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