後ろ向きな記憶

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短パンのポケットに一枚のレシートが入っている。
ドラッグストア「バルタンの星空」千葉勝浦店とある。深夜の1時15分に睡眠導入剤とロープと軍手、そしてカニかまぼこがひとつ。
なんだか胸騒ぎがする。もっと具体的に言うなら、下腹部がシュワシュワとして不安が沸騰している感じ。
こういうことは今日がはじめてではない。年に一度、決まって春の、まだ春すぎないころ、数時間だけ記憶のない夜がある。
僕は名古屋に住んでいて、今は朝の7時だから、千葉のレシートがあるだけでもう意味がわからない。免許のない僕がどうやって帰ってきたのか。冷蔵庫にカニかまはないし、薬を飲んだ記憶もない。室内に縛りあげた男もいない。
僕は誰かを誘拐した気がする。被害者が女性やこどもの可能性はあるだろうか。考えただけでゾッとする。
僕は勝浦に住む祖母の家に電話をかけた。姥捨した不安があったから。
祖母は言った。
「今年も産卵ありがとうね」
公開:21/03/08 09:08
更新:21/03/08 09:25

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