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大きなのっぽの古時計は言った。
「魔法の力を譲ってやろう、私の願いを叶えてくれるなら」
「いいですよ」
僕は応えた。
うふん、うおほん、と時計はむせるように咳払いをした。
「私の声が聴こえたのか?」
僕は頷いた。
「まさか……夢じゃないのか」
「どちらかと言うとこっちのセリフです」
「まあいい、それでは……」
時計はしばし考えたあとで言った。
「鏡を持ってきてくれ」

「それで、魔法の力というのは」
咳払いをしてから、僕はもう一度尋ねた。
「ん、ああ、すまんすまん」
時計は作られて初めて自らの姿をじっくりと見、字義通り自惚れていたのだった。
「時間を操る能力だよ」

僕は早速教わった呪文を唱えた。
……しかし、何も起こらない。

「時を止めたはずなんですが」
「止まっておったよ、あんたも止まってたがな」
「意味ないじゃないですか」
「意味があるとは言っとらんよ」
時計はにやり、と笑った。
ファンタジー
公開:21/03/07 23:59

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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