花

祖父のパイプをお守り代わりに今日も私は謎を解く。
西に「翼の行方を追って欲しい」と依頼があれば大空を舞い、東に「夏野菜の扉を見つけて欲しい」と依頼があれば畑を駆ける。
探偵は知力・体力・時の運。どれだけ自信に満ちる名推理も犯人が認めてくれなければ意味がない。探し物だって場所が分かっても見つからなければ意味がない。結局、私の推理なんてただの運の良い話さ。
私にもっと才能があれば、安楽椅子に揺られながら優雅な推理を語れただろう。留守番の条件には丁度いい。
しかしそんな威厳も風格も持ち合わせていない私は事件があればはるばる先にと向かう。
果報は寝て待ってもやってこない。時計の呟きは聞こえないし、時間の蕾は開かない。
よく行く真夜中のコンビニではホームズとあだ名をつけられている。空耳なんかじゃない。
妻に渡すは花束ではなく領収書の束。鋭く睨みつける妻にいつか殺されやしないかと毎日ヒヤヒヤしている。