よくある風景

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もうずっとこどもの頃から見て見ぬふりをしてきたけれど、今日は雨。
「お父さんでしょ」
冬の冷たい雨ならきっとこんな気持ちにはならなかった。そんな季節がわりのあたたかい雨。
「お父さんよね」
やまない雨が舗道に咲くこぶしの花をお父さんにした。
このまま放ってはおけない。できることはなんだろう。ここで独り咲くお父さんの気持ちなど考えずに生きてきた。知らんぷり。それが私の罪名。
高校を出て就職した。職場のボイラー室で小説を書く純平さんを好きになって私たちは結ばれた。そのうち純平さんには新しいひとが現れて、私は古いひとになった。純平さんを諦めるなんてできないから私はたくさんの林檎を買った。剥くために。彼の前で剥くために。
純平さんは職場で林檎を剥き続ける私を軽蔑の目で見た。
「食べない林檎を剥くなよ」
「あなたが私を剥いたの」
私はお父さんを連れ帰るためにスコップで舗道のこぶしを片っ端から掘った。
公開:21/03/05 19:17

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