重力の向こう側

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陸上部の部室で、高跳びの選手のケンタが、テーブルの上においたクリップを、マグネットをにつけたり外したりしている。まるで幼稚園児みたいな様子をヒロユキがからかうと、ケンタは真面目な顔をしてこう言った。
「実に不思議だと思わないか。だって、ものすごくデカい地球の重力より、この小さな磁石が持つ磁力の方が強いんだぜ。あまりに理不尽じゃないか」
「そんなこと、考えたことすらないよ」
「最新の研究によると、実は重力は3次元空間だけでなく、4次元や5次元といった空間に力が漏れているらしい。だから弱いんだ。ということは、おれたちも重力と一体化すれば、他の次元に飛び立てるはずなんだ」
数日後、ケンタは突如として消えた。
彼の高跳びはだれよりも美しかった。きっと、彼の美しい背面飛びは次元を超えて、いまや4次元か5次元の世界を浮遊しているのかもしれない。
ヒロユキはそのような想像を、止めることができなかった。
SF
公開:21/03/06 10:27

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