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老女が玄関の戸を開けると、茶色いローブを纏った風変わりな男が居た。
手に握るリード紐の先には、狸。
「駄目だよお婆さん、こんな怪しいのに門戸を開いちゃ」
男はそう言うと老婆の手にそっと小包を渡した。

「なあ、勘弁してくれよ、こんなの続けてちゃキリない」
外灯の光でシルエットになった男を見上げて、狸は言った。人気のない夜の公園。男は蔑むように目を細めて狸を見下ろす。
「あんな人の良い婆ちゃんを騙すなんて、人間同士の化かし合いは低レベルだね。人騙しはおいら達の専売特許なんよ?」
男はリード紐をぐいっと引き上げた。狸は苦しそうにもがく。
「騙し取った分は全部返すんだ、ニンゲン。じゃなきゃ、その格好のまま車にでも撥ねられるしかないぞ」
降ろされた狸はげええ、と悲痛な鳴き声を漏らした。

「この世は弱肉強食じゃなかったのかよ。インチキだ」
「インチキも我らの流儀でね」

ホウ、と、梟が鳴いた。
その他
公開:21/03/01 22:00
更新:21/03/02 01:49
ちょっと修正

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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