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「どうです」
私は店の中で宝石を手に、業者へそういった。
「この宝石だと、これくらいですね」
そういって提示された額は、物足りないものだった。
「これだけですか」
「はい。こちらとしても、精一杯でして」
「もう少し高くなりませんか」
「難しいですね。最近は、私どもも厳しくて……」
仕方なく、その金額で手を打った。

「どうでした」
家に帰ると、妻がそうきいてきた。
「いまいちだったよ」
「そうですか」
妻は肩を落とした。
「私の腕があまりよくないばかりに……」
「そんなことはない、お前はよくやってくれた。次に上手く作ってくれれば、それでいいさ」
「はい。もっと修行して、精巧な偽物を作りますね」
「ああ。少しずつ上手くなっていこう。そうすれば、やがて我々の生活も楽になって……」

今日も、私と妻は精巧な偽物の宝石を作っている。
作業時間売り上げ共に、フルタイムの仕事とあまり変わらないけれど。
公開:21/02/28 16:54

ふじのん

歓びは朝とともにやってくる。

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