まっかなさくら

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「桜を切ろうと思う」
土曜の朝、親父から電話があった。妻と息子に訳を話して、俺はひとり実家に帰ることにした。

十年前のあの日、お袋の病室に手折っていった桜が、燃え盛る炎のような姿に変わり果てていた。桜は、真っ赤な花をつけていた。

呆然と立ち尽くしていると、一人と一匹で住むには広すぎる一軒家から、猫のミイを抱えた親父が出てきた。
「ただいま」
「ニャー」
「おう」
「桜が…」
「明日、業者を呼んで切ってもらう」
「いいの?」
「いいんだ」

翌日、桜の花びらは元の色に戻っていた。
「本当にいいの?」
「いいんだ」

トラックに桜の木を積んだ業者は帰りがけに言った。
「中がかなり腐っていたので、もう少し遅かったら倒れていたかもしれませんね」

桜の木を最後まで見送る親父の背中が小さく見えた。
「次の春までに、一緒に住もうか」
「ニャー」
親父はトラックが走り去った方を見たまま小さく頷いた。
その他
公開:21/03/01 00:38
更新:21/03/01 15:29

ぱせりん( 中四国 )

北海道出身です。

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