香るのは、桃。

4
5

おばあちゃんの手は、いつも柔らかくしっとりとしていた。
甘い香りがして、私はおばあちゃんと手を繋ぐのが大好きだった。

「おばあちゃん、」
「泣かないで、おばあちゃんね、笑ってるお顔がいちばん大好きなの。」

白い園でおばあちゃんが眠るとき、私はいかないで、と声を上げる代わりに強く彼女の手を握った。
長くは届かない想いだった。
それでもお医者さんが言うには、意識を明確に保てていたこと自体が奇跡らしい。
おばあちゃんの手のひらは、やっぱりあの甘い香りがした。

母は、彼女を送る箱舟の中に白い百合ではなく、鮮やかな温もりの色に染った桃の花を入れた。
おばあちゃんには、白い百合が似合うのに。
どうしてと問えば、母は瞳の水分量を増して答えた。

「あなたの誕生日、三月三日でしょう。だからお母さんはいつでも桃のハンドクリームを塗っていたの。
おかげで好きなお花が桃になったって、嬉しそうにね。」
青春
公開:21/02/27 18:52

( 東京 )

色んな色の作品を目指します。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容