二月の朝

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家を一歩出ると、切れるほどの冴えた空気。息を吸うと肺の場所がくっきりとわかった。マフラーを巻きなおす。耳あて代わりにヘッドフォンをかけて、駅へ向かう。

薄青く凍った空に、雲はない。何かが透けて見えそうだった。
アスファルトを歩く硬い音が、住宅地に響く。

突然、何か砕ける音が聞こえた気がした。ヘッドフォンを外して、視線を上げる。
空が、割れていた。
薄氷が張っている。ひびが見る間に広がり、一斉に、空は粉々になって降り注いできた。たくさんの破片が、透明な朝日に瞬く。
鈴よりも、水のせせらぎよりも澄んだ音。一つ一つは微かな響きが、重なって、散らばって、辺りを満たした。
破片は地面に落ちた途端消えていく。

束の間だった。光と音のシャワー浴びた後、はっとして歩きだし、腕時計を確認する。

会ったら何と伝えるかは、決まっていた。
旅立つ友人を見送りにいく足取りは、いつの間にか軽かった。
ファンタジー
公開:21/02/26 20:55
動画を元に書いてみた

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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