本の虫と幸せのいく先

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私は、幸せには小説はいらなくて目前のものを愛せることだと思ってきたが、知るというのは愛するに近しいものなのだと、その虫は言った。気まぐれで本を読んでいると、頁の隙間に小さな小さな蟻がいたのだ。
蟻がいいものなのか悪いものなのかも分からず、そばに置くことにした。
「女王蟻とダンスを踊ってきます」
「それは幸せなの?」
「社会を受け入れることも大事なのです」
蟻の言う幸福論は、小さな小さな幸せを見つけられるものではないかと思い始めた。
帰ってきた蟻は、女王蟻に踏みつけられて足を負傷していた。幸せは同時に辛いこともあるんですよ、と蟻は言った。
幸せはふわり、ふわりと、掴めないもので、どこへ行くのか聞いても答えは帰ってこないだろう。私は今日も頁にいる小さな小さな蟻と語る。
ファンタジー
公開:21/02/27 11:17
更新:21/02/27 11:20

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