おしゃべりな海鮮丼

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 ワシは馴染みの寿司屋で海鮮丼を注文した。
「今日は特にネタの生きがよくてねぇ。うるさい位かも知れやせん」
大将はそんなことを言いながら、ワシの前に大きな丼を置く。
 途端にマグロが声をあげる。
「さぁさ、昨日水揚げされたばかりのキハダマグロ!インド洋を周遊してギッチリ身のつまった赤身だよ!」
隣で白い切り身が負けじと声を張る。
「白身代表ヒラメです。知っての通りの高級魚!プリップリなこの歯応えをご賞味あれ!」
「海の宝石と言えばこの俺ウニ!舌に乗せりゃとろけること間違いなし!」
なるほどこいつは楽しそうだ。
ワシは勧められるままに赤みの刺身に箸を伸ばした。
「あっ……」
小さな声が聞こえてワシが箸を止めると、マグロは叫んだ。
「覚悟はできてます!ひと思いに食っちまってください!」

「いや無理…………食い辛い」
食欲の失せたワシは、新鮮な海鮮たちの視線を一身に浴びながら、途方にくれた。
その他
公開:21/02/25 22:55
更新:21/02/26 13:05

仁科佐和子( 愛知県 )

児童文学、エッセイ、小説などを書き散らかし、公募にいそしんでおります。

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