雪山ショートケーキ

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タクシーに揺られ、窓の外を眺めれば雪の下から山肌が覗いている。
雪国に生まれたわけじゃないのに、その光景はどこか見覚えがあった。
不均等な白と茶色。
そういえば、今朝触れた雪は驚くほど軽かった。
私は考えれば考えるほど、思い出せず諦めてスマホに目を落とす。

画面には母からのメッセージ。
「就職おめでとう。もうあなたにケーキを作ってあげられないことが寂しいけれど、立派に育ってくれてお母さんはとても嬉しいです。」

刹那、蘇ったのは、母がなにかと祝い事にはケーキを焼いてくれた、幼き日。
初めのうちはお世辞にも上手とは言えず、スプーンで塗りたくったホイップクリー厶はあの雪のようにまばらだった。
ところどころに見えるスポンジは、不器用な彼女のようで、私はケーキを見るたび温かい気持ちになったっけ。

色んなパティスリーに行ったけれど、やっぱり食べたいのは、窓から見える雪山のようなショートケーキだ。
青春
公開:21/02/25 21:19
更新:21/02/25 21:42

( 東京 )

色んな色の作品を目指します。

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