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意識が戻ると同時に僕は酷く咳き込んだ。
「いまのは……?」
朝倉さんは角張った顔を歪めて意地悪そうに笑った。この男に首を締め上げられてよく骨が折れなかったものだ。
「こいつがハートシーフとも呼ばれる所以さ」

僕は呪符の施されたグラスのない眼鏡をもう一度かけ、蜂を再見した。
青白い光を放ちながらゆらゆらと飛び回っている。それから瓶を見た。同じ青に輝く神秘の蜜が、再び僕の意識を奪う。強く目を閉じて首を振る。気をつけろ、今度こそ首がもげるぞ。

「ヨモツバチ。彼岸花から採取しているのは黄泉の霊魂だ」
その蜜を食した者は魂を喰われるという。

彼は納屋の奥へと僕を連れていき、真新しい呪符にまみれた一際仰々しい霊瓶を取り出した。
「これが将門公の分だ。大霊を呼び戻すには多くの生贄が要る。裏切れば……、わかってるよな?」

始めたばかりの暗殺稼業。僕はとんでもない貧乏くじを引いてしまったようだ。
ファンタジー
公開:21/02/26 22:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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