首輪

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 朝の散歩のために近くの公園へでかけたら、不思議なお爺さんに出会った。
 お爺さん自体には特におかしなところはない。むしろ、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべて、私に軽く会釈すらしてくれた。礼儀正しい老紳士といった風情だ。
 ところが、そのお爺さんの右手には犬用のリードが握られていて、その先には、何もない空間に首輪だけがプッカリと浮いているのだった。
 私は会釈を返しつつ、思わず首輪を見つめていた。けれど、お爺さんはそんな私を気にもせずに、のんびりと横を通り過ぎて行く。
 気になったので声をかけようかとも思ったが、何をどう尋ねればいいのか分からず、そのまま立ち止まって首輪ばかりを見ていた。
 すると、首輪の方からワン、という声が聞こえた。
 ああ、犬なんだ。
 そう思うと、なぜだか少しホッとした。
ファンタジー
公開:21/02/25 07:46
不思議なオモチャ箱

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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