中華飯店桜宝軒　日替わり定食　800円(出張版)

　今日は「日替わり」がよく出た。仕入れにより献立を変える"日替わり定食"は桜宝軒でも人気のメニューだ。

　年は取りたくない。10年前ならいくら中華鍋を振っても腕にくることはなかった。

　明日も朝から仕込みだ。迫る老いから逃げる様に、煙草の火を消し、カビ臭い布団に意識を溶かす。寝煙草を口うるさく咎める家内も、もういない。

　その晩、不思議な夢を見た。

「死にたいのか！」
　
　堅牢な城壁に獅子の顔が描かれた旗。目の前の男は剣と盾を持ち、鉛色の甲冑を着ている。空には火を吹く大トカゲが翼を広げていた。

「中華の料理人？そりゃ飯の中に華でも入れんのか？あのドラゴンを倒したら料理の腕を見せてみろ。」

　騎士然とした男は笑う。

　ドラゴンの調理は初めてだが、捌き方はワニと変わらんだろう。揚げて辛味で炒めるか、甘酢餡で絡めるか…。

　新たな食材の開拓に、年甲斐もなく少し胸が躍った。