ミルフィーユで拭う
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「犯人は煮穴子のような男でした」
被害にあった少年はそう語ったと、捜査官の妻が記者に洩らした。
そんな週刊誌の記事を私は現代美術館の個室トイレで読んでいる。
1986年11月26日号。長い間岐阜県高山市江名子町にある民家のトイレの窓辺で、西陽に晒されていたミルフィーユのような美しい存在感をみせるこの週刊誌と、週刊誌が置かれていた空間をまるごと再現したこの展示。
私はその便器に座り、実際に用を足しながらその週刊誌を読んでいる。パリパリとした音と触感。いま私の右頰に射しているこの西陽は、きっと故郷の町にも同じように射している。その歓びは少し切なくて、ページをめくる音に、私もいつか朽ちるだろう寂しさを感じた。
刑事は捜査のことを妻に話すのだろうか。妻は何故その話を記者に洩らしたのか。煮穴子のような男。それは何だ。
個室の扉がノックされる。が、紙はない。追いつめられた私の行動までが作品なのだろう。
被害にあった少年はそう語ったと、捜査官の妻が記者に洩らした。
そんな週刊誌の記事を私は現代美術館の個室トイレで読んでいる。
1986年11月26日号。長い間岐阜県高山市江名子町にある民家のトイレの窓辺で、西陽に晒されていたミルフィーユのような美しい存在感をみせるこの週刊誌と、週刊誌が置かれていた空間をまるごと再現したこの展示。
私はその便器に座り、実際に用を足しながらその週刊誌を読んでいる。パリパリとした音と触感。いま私の右頰に射しているこの西陽は、きっと故郷の町にも同じように射している。その歓びは少し切なくて、ページをめくる音に、私もいつか朽ちるだろう寂しさを感じた。
刑事は捜査のことを妻に話すのだろうか。妻は何故その話を記者に洩らしたのか。煮穴子のような男。それは何だ。
個室の扉がノックされる。が、紙はない。追いつめられた私の行動までが作品なのだろう。
公開:21/02/23 16:19
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