なにを踏んだ?

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仕事からの帰り道。
最寄り駅から大通りを数分歩き、家までの近道になる路地に入る。
背の高いブロック塀が両脇を囲み、ただでさえ心許ない街灯の明かりが弱々しさを増す。
足元も当然暗いが、私にとっては通いなれた道でもあるので、別段躊躇も恐怖も困惑もなかった――のだが。
なにかを踏んだ。
靴のソールを越えて感じる感触。
細いような、太いような、固いような、柔らかいような――。
なにかはわからないが、確実になにかを踏んづけた。
石でもない。木でもない。空き缶でもペットボトルでもない。
今までに踏んだことのない、なにかの感触。
私はその感触が果たしてなにかと、色々なものを想像しながら、しかし歩を止めてまで確認するほどでもないと、家路を急いだ。

あれから随分と時が経った。
私は歳を取り、もう歩くことすらままならなくなった。
なにを踏んだのか。
結局、わからないままだ。
ミステリー・推理
公開:21/02/23 08:36

碧色あをゐ

引っ越しをして、通勤時間が増えました。
なにをしようか考えた末が今です。
日々に少しのスパイスを。

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