校長先生の話

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「皆さんが静かになるまでに、五六億七千万の五十六億七千万乗年かかりました」
 校長先生はいつもの穏やかな、けれど少しだけ諭すような調子で口を開いた。
 すでに地球はハビタブルゾーンから外れていた。それどころか、地球そのものが寿命を迎え、消えていた。また、宇宙自身も長い年月を経て、惑星が少しずつ消えて行き、今ではもう、視認できるものはなかった。
 そこは暗闇の支配する世界であり、当然、校長先生にも何も見えはしなかった。
 それでも、校長先生は話を続けた。いつものようにゆっくりと、時には小学生たちが呆れてしまうような、面白くも何ともない冗談をわざと入れて、話の流れを整えながら。
 校長先生は自分の意志と無関係に話をしていた。言葉を出すこと、それこそが何もなくなった宇宙でただ唯一、自分が人間であることを感じられる行為なのだと、彼は本能的に知っていたからだ。
ファンタジー
公開:21/02/24 20:00
不思議なオモチャ箱

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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