溺れる
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涙を溜めた母の目がぎゅっと閉じられ、苦しげに息を吐く。
氷枕の水音の心地よさにうつらうつらしていると、玄関先で母が誰かと話す声。
「やっぱり行けない」
戻った母は私をきつく抱き寄せる。胸元は氷枕の冷たさ。
ちゃぷん。
母の葬儀の日叔母たちは私を見て「ほんと姉さんに似てきたわ」と言った。
「姉さんも泣かない人だったよね」
涙を見せない私をちらりと見る。
父は喪主のくせに例によって酔い潰れ、別室で寝ている。
「あんな男でも堪えてるのかしら」
叔母のひとりが忌々しげに吐き捨てた。
弔問客のひとり歳の頃は母と同じぐらいか。白髪混じりの無精髭。私を見てハッとする。
「この度は…」
どこかで聞いたような声。
男は棺の前で手を合わせ花に囲まれた母を見上げる。
私は母のように瞼を閉じる。この涙はどこへ行くのだろう。
突然倒れた母は息苦しげに何度も口を開き、事切れた。
その肺は水でいっぱいだったそうだ。
氷枕の水音の心地よさにうつらうつらしていると、玄関先で母が誰かと話す声。
「やっぱり行けない」
戻った母は私をきつく抱き寄せる。胸元は氷枕の冷たさ。
ちゃぷん。
母の葬儀の日叔母たちは私を見て「ほんと姉さんに似てきたわ」と言った。
「姉さんも泣かない人だったよね」
涙を見せない私をちらりと見る。
父は喪主のくせに例によって酔い潰れ、別室で寝ている。
「あんな男でも堪えてるのかしら」
叔母のひとりが忌々しげに吐き捨てた。
弔問客のひとり歳の頃は母と同じぐらいか。白髪混じりの無精髭。私を見てハッとする。
「この度は…」
どこかで聞いたような声。
男は棺の前で手を合わせ花に囲まれた母を見上げる。
私は母のように瞼を閉じる。この涙はどこへ行くのだろう。
突然倒れた母は息苦しげに何度も口を開き、事切れた。
その肺は水でいっぱいだったそうだ。
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公開:21/02/24 18:36
更新:21/02/24 20:46
更新:21/02/24 20:46
ボケ防止にショートショートを作ります
第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。
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