瀉血の男

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 いいことなのか、悪いことなのか、わからない。
 どこで生まれ、どこへ消えていくのか。
「母乳は白い血液よ」
 鳩を吸っていたうら若き女性内科医が語っているのを盗み聞いたのは、湘南に程近い大仏の息吹を感じる切押しの中腹だった。
「ずいぶん物騒な話ですね」
「いえ。南極には血液が透明な魚が確認されていますよ」
「ヘモグロビンは?」
「素敵な名前だと思います。セロトニンよりもずっと、ずっと」
 わたしは床屋の帰りだったか、床屋へ向かう途中だったか。すっかり禿げ上がってしまった今となっては定かではない。
「脳漿は透明な血液では?」
「純度は高そうね。だってずっとラリってるんだもの」
 脳内麻薬をドバドバ出し、それを独り占めする脳の血管のこまごまとした分岐を、ひっきりなしにスパークする春夜の稲光を頼りに彷徨したわたしはおそらく、「血液」にたどり着いた。
 献血には上限がある。腕は二本しかない。血を
その他
公開:21/02/24 09:34
更新:21/02/24 09:35
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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