想眼鏡

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出版社に勤めている俺がショートショート作家のT先生の部屋を訪ねたときのことだ。
ちょうどT先生が熱心に双眼鏡を覗いていた。
「何をご覧になっているんですか?」
「創作のヒントになりそうなものを探しています」
「気晴らしに違うことをしていたら思わぬストーリーが閃いたりしますよね?」
「いえ、これは推敲するために必要な作業です。ショートショートは想像の世界ですから、想眼鏡が欠かせません」
「双眼鏡が欠かせない?」
「これは漢字で『想眼鏡』と書いて、自分が想像した世界を視覚的に見ることができるんですよ」
「え! 不思議な代物ですね」
「この想眼鏡は、もともと仙人の持ち物とされていて、中国は四川省の峨眉山を訪れた際に土産物屋で偶然見つけたんです。千里眼の機能も付いているんですよ」
「最初の質問に戻るんですが、今は何をご覧になっているんですか?」
「遥か遠い宇宙の果てを見ながら物思いに耽っています」
その他
公開:21/02/21 07:08
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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