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何年ぶりかの徹夜のせいもあるだろう。とにかく疲れていて、正常な思考を働かせるには脳の資源が不足していた。

朝、洗面所で顔を洗っているときにそれは起きた。

バシャバシャと顔面に冷たい水を被せている最中、カン、カン、という硬いもの同士のぶつかり合う音がして、僕は徐に目を開いた。外して置いていた指輪がない。

「はぅんあ!」
腕を伸ばしたが時すでに遅し。結婚指輪は排水口の闇の奥へと姿を消していた。

「素直に謝るしかないでしょう、隠し通せるものでなし」
後輩は軽い口調で言った。
「最近喧嘩したばかりなんだよ、これじゃ当てつけみたいだ」
「泣きっ面に蜂ですね」

帰宅すると、テーブルの上には二人分のシュークリーム。仲直りの印。
僕は諦めて正直に話した。妻は少しく驚いた後、笑って言った。

「実は私も無くしたの」
夫婦は似てくるものらしい。

僕は隠していたエクレアを二つ、テーブルの上に加えた。
その他
公開:21/02/20 23:45
更新:21/02/20 23:36

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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