雑踏をよち歩く"ガッズィーラ"のいる街で

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 スクランブル交差点の真ん中でタクシーを降りた。運転手は嫌そうだったが仕方がない。"ガッズィーラ"がいたのだ。
 俺は鞄から適当に鷲掴みして運転手に押し付け、車を出た。
「お客さん。お――」
 "ガッズィーラ"は、雑踏をよち歩いていく。群集は"ガッズィーラ"を巧みに避ける。進路を塞ぐモノは、たちどころに蒸発するからだ。
 姿は東映のゴジラの頭を少し大きくした感じで尾はもっと短く、身長は成人男性の踝ほどの高さだ。夕闇の迫る歩道の無数の靴の中を、"ガッズィーラ"は半ば目を閉じて、一歩一歩、よちよちと歩いていくのだ。
「お客さん。お金ぇ」
 と運転手が追いすがってきた。俺は"ガッズィーラ"を追いながら手のひらを出す。
「これ返すから、お金払ってもらわねえと」
 運転手の手には、棘のない薔薇の花束が握られている。
 俺がそのバラを受け取ると、群集から拍手が湧き起こり、数件先のブティックが蒸発した。
ファンタジー
公開:21/02/21 10:11

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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