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彼と初めて言葉を交わしたのは大学生になりたての頃。後頭部の寝癖がすごい彼と目が合い、気まずさから寝癖を指摘した。
「知ってるけど、自分から見えないから」
そう言って、さっさと前の方の席に座った。私は彼の言い分に呆気に取られ、そして心を掴まれてしまった。その日から、後頭部の寝癖を探すようになったが、いつも講義では前の席に座っていて話しかけにくい雰囲気だった。そんな消化不良な気持ちを持て余していたある日、彼が珍しく講義の時間ぎりぎりに講堂に入ってきた。
「ここ、空いてるよ」
「どうも」
簡素にそれだけ言うと、外に視線を走らせた。
「雨だ」
「通り雨かな」
「ーー布団が死んだ」
絶望的な一言に私は思わず吹き出した。
「寝癖も直らないし」
「ごめん、気にしてたのね」
「してないし」

数年後、彼は360度隙のない姿で私を呼ぶ。
「時間だって」
私は頷いて朱色の傘の影に花嫁草履を滑り込ませた。
青春
公開:21/02/20 09:04

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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