モブ男

僕はいわゆる『モブ男(お)』だ。
モブ男とはつまり《群衆や大衆の中の一人。大勢の中に紛れて目立たない人》だ。何の取り柄もない。だから目立つこともない。下手したら存在すらも忘れられているような人間だ。
　
だから、例えば昨日、電車の中で何かモジモジしていた女子高生に違和感を感じて、満員の人の間を嫌な顔をされつつも移動し、チカンにあってたことをつきとめ、その不届き者の手を思い切りつねってやっても誰も気付かない。

例えば、僕は少しポッチャリ気味なので、密かに夜中ランニングしている。その最中に挙動不審な男がマンション一階のベランダ辺りでうろうろしてたので、電柱に身を隠し(はみ出ちゃうけど)、ソイツが下着を盗むのを確認して通報したとしても、誰にも誉められたりしない。
　
万引きしそうな中学生を止めたとしても、誰かに称賛されたこともない。

……なぜって？
　
それは僕が、ただの『モブ男』だからさ。