夜を刈り取る

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夜が咲きはじめていた。すっと長い茎は、まだ柔らかい。花が開ききる前に、大きなハサミで素早く切り取る。日が沈む頃、一面すべて刈り終えた。

夜の群生する場所。
花は盛りをむかえると、群青の粒子が空気中に滲みだす。
一定の濃度を超えると日が昇っても消えず、町は夜に沈んだままになる。そうなると手が負えない。
だから花はすぐに刈り取る。そうすれば粒子が放出されない。
管轄エリアの夜を刈り、空気中の粒子の増加を抑えるのが今日の仕事だ。

花は研究所に送られるが、一束だけ持ち帰る。瓶に水をくみ、片手をふさいでいた花束を無造作に挿した。作業用のつなぎをかごに投げ入れ、居間に戻る。

八重咲の夜は、もう空気中に滲まないが、
透明な夜気が溢れて、瓶のまわりをしんとさせた。水気を含んだ空気が香る。密度の高い群青色が、ひたひたとこだましてきそうだった。
明日は雷を刈る。ハサミの刃を布でゆっくりと拭った。
ファンタジー
公開:21/02/19 20:44
矢車菊

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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