屋上部伝承の儀

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 屋上を吹き抜ける風に微かな春を感じる放課後。部長がわたしに、部室のマスターキーを手渡した。
「今日からはあなたが部長。わたしがあなたを選んだように、あなたも部員を選びなさい」
 そして部長は、空になった手のひらを私に差し出した。
「スペアキーを頂戴」
 もう、一年になるのだ。自転車置場で雨宿りをしていたわたしに、先輩が声をかけてくださってから。
「屋上部?」
「そう。部長のわたしと二人だけの非公認部活動」
 わたしは何も分からないまま、ただうれしくて頷いた。そのとき渡された部室のスペアキー。それは、北校舎の、閉鎖された屋上の鍵だった。
 その日から、朝、放課後、時には夜中。部長と屋上で過ごした。クラスで孤立したときも、部活があるから頑張れた。
「部長はもうここに来ないんですか?」
 部長はスペアキーを鈴のように振る。
「それじゃ、あとは頼んだよ」
 こうしてわたしは、屋上部部長になった。
青春
公開:21/02/17 10:22

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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