美人薄明

美人。美男でも美女でもなく、その人は人としてただ美しかった。
「美人薄命って言葉がある。美人は短命が多い？それは正解であり間違いでもある」
その人が指さす方向には朝日とも夕日とも見分けのつかぬ太陽と薄暗闇の空に浮かぼうとしていた。
「薄明って言うんだ。夜が明ける頃、日が沈む頃、そう呼ばれる。一瞬で終わる、１日で最も美しい瞬間」
天体観測にやってきた僕はその人と出会った。その人と過ごした時間は夢のような一時だった。
「さ、夢の時間はもうおしまいだ。じきに夜が明ける」
ピンクの空がオレンジへと燃え上がり、白に染まっていく。
「人生も一緒。小さい頃は男か女か分からない。老人になれば再び男か女か分からなくなる。そんな一瞬に人は本当の意味の美しさを得る」
その人の顔に刻まれた皺は太陽に照らされてなお美しかった。
「美人には男女も歳も関係ない。よーく覚えておきな」
その人は美しくも儚い笑みを浮かべた。