ひょっとこの夜

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なぜ年老いた天狗の私が砂漠で国境警備に就いているのか。理由はただひとつ。棄てられたからだ。
「代わりなら幾らでもいる」
老いた上官は私にそう言いながら、明日は我が身と怯えているようだった。
食べるために3匹の蝿を撃った。5000発あったパチンコ玉は底をつき、私に戦意などもうない。
赤みを帯びた砂が風に巻かれて吹かれてゆく砂丘の影に身を潜めていると、鉄板に仕上げのソースとマヨネーズをかけるような音とにおいがして、空にビールの蜃気楼が見えた。
「越境者は迷わずに撃て」
私の手には上官から渡された輪ゴムと差し歯がひとつ残るだけ。
私は満月の夜、丘を越えて敵陣に向かった。
そこには若いひとりのひょっとこがいて、私は自分の面を外して、夜が明けるまでひょっとこでいた。ひょっとこもまた私の面で、黙って天狗でいてくれた。
熱心に何かを話してくれた気もするが、私の耳はもう役に立たず、とりあえず笑っておいた。
公開:21/02/18 14:04
更新:21/02/18 14:08

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