ひと粒の理由

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私は灼熱の砂漠で国境警備の最前線にいる。御国のため。家族のため。ずっと理由を探しながら。
食べるために45羽の渡り鳥を撃った。45発の薬莢が残り、それはつまり任務に就いて45日が経ったということだ。
赤みを帯びた砂が風に巻かれて吹かれてゆく砂丘の影に身を潜めていると、太陽の光が砂のひと粒ひと粒を炒飯みたいに執拗に炒め乾かす音がして、空にビールと餃子の蜃気楼が見えた。
「越境者は迷わずに撃て」
私の手には上官から渡されたライフルが一丁、掘った穴には溢れるほどの銃弾がある。
季節はおろか時も飲みこむ砂の海では浪裏のような砂丘と月だけが確かな遠近感だ。
はじめての満月の夜。その丘を越えてひとりの天狗がやってきた。
私がひょっとこの面を外して天狗に差し出すと、天狗も自分の面を外して、私たちは互いの面でひと晩を過ごした。次の満月にはそれぞれ上官を誘い、いつか皆でマイムマイムを踊ろう。そんな話をして。
公開:21/02/18 11:57
更新:21/02/18 12:15

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