『名前も知らない花』・補遺
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「名前を教えてください」
ある日、私の店にひとりの青年が訪れた。青年は店に入ると、しばらく落ち着きなく店内を見回していたが、私が出ていくと上気した面持ちでそう言った。
「どのお花ですか?」
私は満面の営業スマイルで答えた。
うちの花には名前が書かれていない。だから、ほとんどの客に名前を訊かれる。訊かれれば答えるが、実は面白くない。
客は、名前を知るとそれだけで満足してしまう。
「えっと」
青年は私から目を逸らすと、またキョロキョロと周りを見回した。
「プレゼントですか?」
私の問いかけに、青年は顔を真っ赤にして「い、いえ」と答える。
ふと、いつかの記憶が頭をよぎった。そういえば、何も訊かずに花を買っていった青年がいたっけ。
まったく、どいつもこいつも。
「あの」
おっといけない。仕事仕事。
にこっ、とすかさず営業スマイル装着。
「どのお名前ですか?」
「あなたの名前を教えてください」
ある日、私の店にひとりの青年が訪れた。青年は店に入ると、しばらく落ち着きなく店内を見回していたが、私が出ていくと上気した面持ちでそう言った。
「どのお花ですか?」
私は満面の営業スマイルで答えた。
うちの花には名前が書かれていない。だから、ほとんどの客に名前を訊かれる。訊かれれば答えるが、実は面白くない。
客は、名前を知るとそれだけで満足してしまう。
「えっと」
青年は私から目を逸らすと、またキョロキョロと周りを見回した。
「プレゼントですか?」
私の問いかけに、青年は顔を真っ赤にして「い、いえ」と答える。
ふと、いつかの記憶が頭をよぎった。そういえば、何も訊かずに花を買っていった青年がいたっけ。
まったく、どいつもこいつも。
「あの」
おっといけない。仕事仕事。
にこっ、とすかさず営業スマイル装着。
「どのお名前ですか?」
「あなたの名前を教えてください」
青春
公開:21/02/17 22:09
水素カフェさん
『名前も知らない花』
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