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今年の冬は暖かいとか街頭のディスプレイがほざいていたが、そんなのはお前たちの勝手な解釈だろ。

炊き出しの列に並び、先頭から立ち上る湯気を細目に見ながら体を震わせている。前の爺の白いプラスチック・カップが目に入った。既に何か入っている。

「爺さん、もう貰ったんなら後にしろよ」

老人は汚い毛むくじゃらの顔で意識も虚ろっぽい目で俺を見返してきた。へらへらと笑っているだけで返事をする気はないらしい。

「もう貰ってんだろ、ボケてんのか」
爺の前に並んでいた若い男が振り返る。

「まだだよ、貰ってないよ。それ……この人の奥さんだ」

よく見るとそれは骨だった。ところどころ黒ずんでいたり、色がついているので食べ物かと思った。

俺は何も言えなくなってしまった。

カップを受け取って熱々の豚汁を貪り、鼻水をすすりながら爺の方を一瞥する。

老人は手を合わせてから食い始めた。遺骨に何かを呟きながら。
その他
公開:21/02/15 07:00
更新:21/02/14 16:44

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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