かぎしっぽの傘

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ビニール傘をさしながら、目の前を行く猫を追いかける。子供の頃お気に入りだった持ち手がぶち柄の傘と良く似た、かぎしっぽの猫だ。振り向いた猫と目が合いぎこちなく微笑み返した。猫はついて来いとばかりに軽やかに歩く。
雨風の強い日にその傘が壊れた時、泣き喚いて母を困らせた。あの時は上手く言えなかったけど、本当はもっと一緒に悲しんで欲しかったのだと思う。
揺れるかぎしっぽを見ていると、不思議と子供の時の記憶が甦るようだ。猫はカフェの前で止まり、ひょいと猫用ドアから店内に入っていった。つられるように入ったカフェの傘立ての端に錆びたビニール傘をさす。
案内された席につくと、ぽんと柔らかい前足が膝に乗った。次の日曜日は新しい傘を探しに行こうかなと猫の柔らかい背中を撫でる。猫は気持ち良さそうにかぎしっぽを振った。
その他
公開:21/04/18 22:52

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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