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散歩中、肌寒い風が不意に温んで、汗ばむ程に感じる時。辺りを見渡せば、それは大抵目に入る位置にあるのだった。
『宿陽(しゅくよう)』と私は呼んでいる。群れ咲く花の一枝、一輪、あるいはひとひら。他に先駆けて、ひときわ輝きを放つものがある。折々で種は違えど、触れる事すらためらわれる様な、清々と澄んだ色をしている。
今日は足元の黄水仙だった。
小さくうつむいた、丈の低い一輪に光が集まり、花弁が白く透けて見えた。
広げた六弁を通過した太陽が、靴先をじんわり温める。景色に気を取られ、うっかり踏みそうになっていた。高まっていく熱が無言の抗議に感じ、慎重に足を引く。
群生から離れて目を戻すと、宿陽は既に消え、皆素知らぬ顔で揃いの黄色に染まっていた。
何だかからかわれた気がした。片方で、どこかほっとしている様にも見えた。
じきに風は寒さを増したが、靴の中でまだ指は温かく、もう少し歩いてみようかと思った。
『宿陽(しゅくよう)』と私は呼んでいる。群れ咲く花の一枝、一輪、あるいはひとひら。他に先駆けて、ひときわ輝きを放つものがある。折々で種は違えど、触れる事すらためらわれる様な、清々と澄んだ色をしている。
今日は足元の黄水仙だった。
小さくうつむいた、丈の低い一輪に光が集まり、花弁が白く透けて見えた。
広げた六弁を通過した太陽が、靴先をじんわり温める。景色に気を取られ、うっかり踏みそうになっていた。高まっていく熱が無言の抗議に感じ、慎重に足を引く。
群生から離れて目を戻すと、宿陽は既に消え、皆素知らぬ顔で揃いの黄色に染まっていた。
何だかからかわれた気がした。片方で、どこかほっとしている様にも見えた。
じきに風は寒さを増したが、靴の中でまだ指は温かく、もう少し歩いてみようかと思った。
ファンタジー
公開:21/04/20 16:10
散歩道で見た
シーズン4₋③
宿陽の花
創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞
いつも本当にありがとうございます!
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