おぼれる華

0
2

そう遠くはない昔の話だ
その村にはとても綺麗な花が咲く小さな寺があった
その美しさはこの世のものではないほどだった
あまりの美しさに村のものは息を呑んだ
「どうしてあの寺はあんなに美しいのだろう

村人達は何年も何十年もただその美しさに酔いしれ、いつのまにかその疑問さえ忘れてしまっていた
桜はまるで着物を着て儚く涙するお姫様のように
椿は恋焦がれ叶わず思いつづける少女のように
沈丁花は我を忘れてしまうほどの香り

私は知人に頼まれて、風呂敷包みを寺に持って行く事になった
和尚は深々と頭を下げて風呂敷から箱を取り出した
漆の美しいその箱を大事に抱え木の根元にうめていた
「何をしているのですか?」
「届かぬ思いを箱に詰め供養しているのです。
大切な想いは全て花となり咲き乱れ
想いは消えて楽になるのですよ」

この寺は本当に美しい
美しすぎて我を忘れてしまいそうです
その他
公開:21/04/19 23:44

ミルコ

挿絵はコロナで展示ができなかったチビ太さんにご協力して頂きました

ものづくりをしてます

よろしくお願いします
 

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容