万華写窓(カレイドファインダー)

16
8

「いいカメラだ。飾っておくといい。」
質屋の老店主はカメラを俺に返す。「思い出もまた財産だ。」と。

ジジイの形見には値が付かなかった。思い出じゃパンは買えない。

錆びてシャッターが切れない時代遅れのガラクタに、やはり価値などないか。

舌打ちをする。遅れてため息が出た。

「ファインダーは万華鏡だ。覗くたび世界が違って見える。」
ジジイの言う通り、まだ疑いを知らぬ幼い頃、そこを覗けばキラキラした世界が見えた。

ガラクタが見せるのは、今じゃ濁った曇り空くらいだ。

ファインダーを覗く。

予想外の光景に俺は目を疑った。

穏やかな笑みの見知らぬ女が赤子を抱いている。傍ら、不貞腐れながらも照れた表情の男が佇む。

その男に何故か見覚えがある。

「まさか…」
妙な確信があった。馬鹿みたいな話だが、それはきっと未来の…

不意に指が触れ、乾いた音で切れないはずのシャッターが切れた。
ファンタジー
公開:21/04/19 19:46
更新:21/04/19 19:56
壊れたカメラ シリーズ① そのガラクタが見せる景色とは?

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


Twitterアカウント(告知&問い合わせ)
https://twitter.com/Karatsu_a

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容