終末映画館

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海辺の町だった。工場の機械は停止してひっそり。店舗が数軒。どの店も開いたままだ。なかに食料がないかと覗く。誰もいない。小さな映画館。看板の男優が笑う。なかは埃っぽい臭いがした。がらんとした客席に座り脚を伸ばす。今夜はここで過ごすことにしよう。一週間前まで俺は露美と二人だった。公園の朝にふと、しばらく別行動しようと思った。露美も同じことを考えていたらしい。起き抜けの笑顔でわかった。一ヶ月か三ヶ月かのちにまた公園で再会しようと俺たちは別々の道を歩いた。
俺たちが世界で二人きりになったのは三年ほど前。ある日、街が沈黙した。誰もいなかった。世界戦争も宇宙人の攻撃もなく俺たちは突然二人きり。必死になって他人を探したが半年で諦めた。誰もどこにもいない。
俺と露美は気の向くままの二人旅。夜はだいたい屋外で眠った。満点の星を眺めて。古い座席で俺は思った。満点の星空も煤けた暗いスクリーンも似たようなものだ。
その他
公開:21/04/19 16:51

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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