桜空

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ある春の日、朝焼けでも夕焼けでもない昼時に空が赤い、いや桜と同じピンク色だ。
ピンク色の霞がかかり、どの雲もピンク色で形が桜の花びらをしている。
すると、上空から桜吹雪がひらひらと降ってきた。季節外れの名残雪だ。
あっという間に空も地上もピンク色に染まる。干していた白地の洗濯物は桜染めになった。
その光景は、現世とは思えない幻想的な桜の園だ。
これは、千年に一度の桜空に違いない。満開の桜が散ったあとに数日だけ出現すると伝承されている吉兆の空だ。
縁起が良いと桜空を愛でながら、桜海老、桜鯛、桜鱒を使った惣菜や桜飯、桜漬け大根、フルーツに桜桃、デザートに桜餅、桜茶ーー桜尽くしの重箱弁当を食べる。
どこからともなくウグイスが飛んできて「ホーホケキョ」と鳴く。
ピンク色の墨汁で筆を執り和紙に願い事を記す、書き初めならぬ桜初めを行う。
これから良い年になるよと言っているかのように桜空が輝いて見えた。
ファンタジー
公開:21/04/17 07:01
朝焼け 夕焼け ピンク 桜吹雪 名残雪 桜染め

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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