田螺(たにし)鳴く玄関

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玄関に置いてある目高の水槽には
水質浄化のために田螺を入れている。
水槽にこびりついた苔など食べてくれるので
生きた掃除屋さんと言ったところだ。

ところが、あるとき
玄関で不思議な鳴き声が聞こえて来た。
ころころ りりりり ころんころん

人気のない玄関に響く声は
低く澄み渡り心地よい。
そこにいるのは目高と田螺
目高の学校が開校しているのだろうか。

夜な夜なころころ りりりと繰り返すうち
どうも仲間を求めて鳴く声のようにも聞こえ
水槽にただ一匹だけの田螺の所業だと
思えて来た。

そこはかとなく寂しい感じにいたたまれなくなり
水槽から田螺をそっとつまみ出し
夜、近所の小川にはなしてやった。
田螺は、巻貝の川蜷(かわにな)が
付けた蜷の道をなぞるように消えて行った。

ころころ りりり ころんころん
月は清かに田螺の声は
玲瓏たる鈴の音のごと。

田螺鳴く  春の季語
ファンタジー
公開:21/04/16 22:30

翡翠工房( 石川県 )

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