マラカス

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人の幸せはふとんの中にある。
出るな。潜れ。
きびしく生きた仏師の父が他界して半年。農業を志した僕は悩んだ末に実家のふとんを出た。僕の知る限りふとんの中で完結できる農業はしめじ作りしかなくて、僕はその世界で高みを目指すことにした。父の分までふとんで過ごすために。
やがてしめじ作りは軌道に乗り、今では5人の従業員たちと同じふとんで菌をまきながら暮らしている。
三回忌が過ぎ、僕のふとんに父の骨が送られてきた。僕の故郷では親の遺骨で子が楽器を作る風習がある。手先が器用だった父は祖父の遺骨でサックスを作った。僕はマレーシアのふとんで暮らす妹にヤシの実を送ってもらい、砕いた父をマラカスにした。
完成したのは送別会の夜で、僕は独立する従業員と桜が満開のふとんに繰り出して、ふとんからふとんへと戻るふとんを忘れるほどに踊り明かした。
新しいふとんにゴロンしてゆく仲間を見送り、僕はひとり父のマラカスを振る。
公開:21/04/15 11:06
更新:21/04/15 11:39

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