風に7%わたし

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黒髪が伸びた分だけ君の目の輝きは失われてゆく。白い爪が伸びた分だけ今日という日は短く暮れる。
そんなうたを口ずさむ老婆がひとり夕暮れせまる河川敷を歩いている。老婆の腰は屈曲していて、その背中のラインは土手や川面と並列する美しさで、私の視点が宙に浮いている不思議よりも、夕焼け色の老婆を食べてみたい気持ちがまさる。なぜだろう。目の前の景色すべてが幼い頃に駄菓子屋で食べた甘酸っぱいオレンジガムのように思えて、子猫がいつまでも母猫のおっぱいを手踏みするように、私は口をもぐもぐとしてしまう。
老婆のうたにはあたたかい湿り気があって、風にのって届くというよりも、耳に直接注がれるとろみの如く内耳の襞を伝い、やがて雫が私の胸を満たす。
自転車の少年が老婆をさらって藍色の川を渡る。なんて美しい誘拐だろう。でも私は知っている。老婆も景色も食べてはいけないことを。
風の中に私はいます。毎月13日は含有2倍の日。
公開:21/04/13 14:48

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