HAGE

笑顔が眩しい、いや、頭部が。
「AGAですね」

ハゲも偉くなったものだ。最近はなんでも病気になる。
気分が落ち込めば「うつ」、コミュ障は「ASD」、注意力散漫なら「ADHD」。

――病気なんです！　普通じゃないんです！

じゃあ普通ってなんだ？　ほんとうに病気じゃない人間なんているのだろうか。みんなどこか欠けているし、立ち上がれなくなる時があるし、苦手なものがある。

「AGAというのはですね、男性型脱毛症と言って、まあ要するに病気です」

名前をつけたらなんだって病気じゃないか。
「苅谷さんは、その、違うんですか」
自然、目線は上向いていく。だって床屋のオヤジ、ほとんどザビエルなんだもの。

「ああ、これはもう完全にAGAですね」
なんと返していいのかわからない。

「別に構いません。なんでも治そうとするのがよくないんです」
オヤジはにっこりと微笑むと、ぴたぴた、と頭部を叩いた。