トラベリングウォーター

水曜日の朝に僕は旅立った。春の雪どけの一滴だった。
「いってきます！」
向こう水で流れ者の僕。どこへ行こう？
『よう、水々しい若いの』
軟水も硬水もわからない水知らずの僕に、小川さんがせせらいだ声をかけてくれた。
小川さんはこの世界の循環を教えてくれた。仲間の話もだ。水田さんに池ちゃんに沼っち、地下には水商売の色はすっぽいお姉さんもいるとか。
時には道を誤り、じっと待つダム時間もあったが無駄じゃない。水を差されても泥水を啜ろうとも心は潤っていた。
中川さんと合流した夜も歩みを止めず、月の光を反射させ川の字で寝ながら進んだ。
幾多の失敗を繰り返し、しょっぱい海へと僕は辿り着いた。
太陽の下の大洋でのこと。
「あれ？体が浮いているぞ」
ここが僕の旅の終着点のようだ。
「水に流せない良い旅だったなぁ」
空には生まれたての兄弟が架けた虹が見える。
「ただいま！」
また巡り会おう、雨季雨季する頃に。