圏外より愛を込めて

　君と別れてから車で近所の山道を登るのが僕の日課になった。外灯の光も乏しい山頂付近に来ると、少し道幅の大きい路肩へと車を停める。そこで君が暮らす街の夜景を見ながら君宛てに届くはずの無いLINEのメッセージを打つ。

　時々、間違えて送信のボタンを押す事もあるが圏外の為届く事は無い。「最近元気？」「お誕生日おめでとう」「寒くなったけど体調はどう？」等と何気ないものから「会いたい」「忘れられない」「大好き」と恥ずかしい程に感情をぶつけるものまで。

　届かなくていい、報われなくていい。君との思い出を思い返すだけで僕は僕でいられる気がするから。僕はきっとこれからも届くはずの無いメッセージを君に送り続けるだろう。人を想う幸せを、人を愛する喜びを教えてくれてありがとう。

　今日もスマホ片手に君を想う。君が新しい彼と幸せに暮らす街を見下ろしながら。

「圏外より愛を込めて」