妹の彼氏

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「ラフマニノフさんですよね」
「いえ違いますけど」
「お懐かしい」
「ですから違いますよ」
「ファンなんです」
すこし考えればわかるはずだが2021年のコンビニにラフマニノフが牛丼を手に立っているはずがない。
その青年はコンビニを出た私のあとをついてきて、私が別れた妻に今月分の慰謝料を振り込むために銀行のATMに並んでいると、青年は私の背に身を寄せて、会いたかったですと囁き、蝉のように泣いた。そのとき私は身体の内側を何か熱いものが走り抜けたような感覚に襲われて、彼の家についていくことにした。
彼の両親は共働きの漁師で今日は誰もいないと言ったのに、行ってみると高校生の妹が彼氏を連れこんでピアノの上でいちゃいちゃしていた。
彼は妹の彼氏に殴りかかり、しかしその男は強く、彼ばかりか私のことまで殴り倒した。私は男に命じられるままラフマニノフを弾き、彼らの恋に一役買った。
窓に青い炎の夕焼けがある。
公開:21/04/12 06:45

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