水琴窟（すいきんくつ）へ続く道

「くっそどうでもいい」
最近の俺の口癖だ。
世界を震撼させている
かのウィルスのせいで
給与は３分の１カット。
シフトも減る一方だ。

妻との中も険悪で
何もかも不愉快極まりない。
「くっそどうでもいい」

今日も仕事と偽り家を出てきた。
本当は休みだ。
通勤途中に寺があることを思いだし
ろくに信仰心もないが
暇を潰すことにした。

どうやら石楠花（シャクナゲ）と
牡丹（ボタン）が見頃らしい。
縁側の手水鉢のそばに
竹筒が埋め込んであり
看板には水琴窟とある。

指示通り竹筒に耳を付ける。
ただ水の落ちる音が響くだけだが
どこか宇宙を思わせる音でもある。
ひとしずく、ふたしずく、ただ落ちる。

「本当に、これこそ
くっそどうでもいいやつじゃないか」

俺はくっそどうでもいい水音を
飽きもせず聞く。

蜘蛛の巣が静かに光る。
青嵐が吹く。

「くっそ・・」その先は出てこなかった。