人体望遠鏡

この春、僕は都会の超一流企業の就職が決まった。やっと女手一つで僕を育ててくれた母に恩返しができる。一緒に都会に行こう！
母は拒否した。思い出の詰まったこの家を離れたくないんだと。
でも一人じゃ寂しいだろう…やっぱり僕、地元に就職するよ…
そんな僕を母は叱った。そして人体望遠鏡を手渡してきた。
これは遠く離れた人の体の中を見る事が出来る望遠鏡らしい。これで毎日お互いの様子を見ては連絡を取り合おうと決めた。
だが僕は日々の忙しさに人体望遠鏡を見る余裕がなかった。母から毎日、僕の体を心配するメールが届く。母は毎日僕の体を心配してくれている…人体望遠鏡を使う時間、ちゃんと作ろう。
そんな母からぱったりと連絡が来なくなった。人体望遠鏡を覗くも異変はない。疑問に思い聞いてみた。
「だって今のあんたの中、私以上に大切な人がいるだろう？」
母は全てお見通しってわけか…近々に婚約者連れてそっちに顔出すよ。