ちくわの桜

14
12

蒲鉾職人の夫は、何でも練って蒲鉾にしてしまう。洗面所の蛇口や、お気に入りのカップも蒲鉾になった。私が作ったロールキャベツを、付け合わせのマッシュポテトと練り合わせて蒲鉾にした時はさすがに怒ったけど――今回は、怒るより少し悲しかった。夫は庭の桜を蒲鉾にした。
雪の降る庭を眺める。
「毎年春にあなたと庭の桜を見るのが好きだったけど、もうそんな春も来ないわね」
私が溜息を吐くと、夫は一本のちくわを差し出した。これで庭を覗けと言う。覗いてみると、なんとちくわの穴の向こう側が、見渡す限り桜色だった。桜色の空から舞い散る無数の花びら。一面の桜色の絨毯。お伽話に出てくる常春の庭のよう。
私はちくわを覗いているのと逆の目をそっと開けてみた。ちくわの先に、夫がピンクのセロファンを被せている。
「一緒に見たいって、言ったのよ」
ちくわを半分に切って、夫にあげた。夫は照れ臭そうに頬を桜色に染めて、一口で食べた。
恋愛
公開:21/04/11 10:11
蒲鉾の桜祭り

10101298

書き手さま読み手さま、私の名前が読めない皆さま。交流大歓迎です!
https://twitter.com/1o1o1298

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容